ひとこまストーリー

Short stories

第2話 上司が『親方』になった日

ひとこまストーリーは、実際にあった、くすっと笑える、心温まるエピソードなどを紹介するコーナーです。
第2話は、入所者Eさんとのやりとりから、改めて大切なことを学んだお話です。(谷)

特別養護老人ホーム美瑛慈光園には、認知症や体の障碍などにより自宅で生活出来なくなった方々が入所しています。
 建物の正面からは、四季折々の自然と広大な大雪山連邦を望むことができます。
 また、建物横には『ブルーリバー』という呼び名をもつ美瑛川が流れ、美しい表情を見せてくれます。
 とある年、春先から秋にかけて河川整備の工事が始まった頃のお話です。

 たまに事務所に顔を出すお年寄りがおり、その一人に入所者のEさんがいました。
 Eさんの部屋の窓からは河川工事が見えます。
 以前の仕事は土木作業員だったのでしょう。
 そんなEさんの心に火が付き、“俺も現場に行かなければ”と思ったのか、
 車椅子を押して事務所に来るなり「工事現場で働きたい」と、その場にいた私の上司に直談判。
 上司は、ゴルフ焼け?野球焼け?普段でも色黒なのに、夏になるとさらに日焼けで真っ黒です。
 そんな風貌からか、Eさんは以前働いていた工事現場の『親方』と間違えて「工事現場に行きたい」と訴えます。
 私の上司『親方』が、“今日の工事は終わったので、また明日来てくれ”と言うと肩を落として帰ります。

 次の日。
 Eさんは、また窓から見える工事を眺めては胸騒ぎがしたのでしょう。
 いたたまれず、またまた事務所の『親方』に直談判に来られました。
 『親方』が、“残念ながら雨の為、今日の作業は中止だ”とEさんに伝えると、また肩を落として部屋へ戻っていきました。
 しばらくすると、今度は雨がっぱと長靴の完全装備で事務所にやって来ました。
 Eさんの熱い思いに、事務所のスタッフは一同に驚きました。
 仕事に取り組むEさんの姿勢を見習わないといけない、と考えさせられた一面でした。